B型慢性肝炎の治療方針

厚生労働省は、平成22年1月1日から施行された肝炎対策基本法に基づき、平成23年5月に「肝炎対策の推進に関する基本的な指針(ガイドライン)」を策定しました。この指針には、肝炎患者などを早期に発見し、また、肝炎患者などが安心して治療を受けられる社会を構築するため、国、地方公共団体などが取り組むべき方向性が示されています。

また、医療におけるガイドラインとは、専門医の集まりである学会などが、これまでの治療実績や研究をもとに検討を重ねて作成した診療指針とされており、一番新しい信頼のおける研究結果に基づいて、もっとも効果的な診療上の目安が書かれたものをいいます。この目安を守ることで、医師の学習や経験によるばらつきを解消し、いつでもどこでも標準的な治療を受けられるようになるとされています。

B型肝炎の治療でいえば、平成25年4月に日本肝臓学会によりB型肝炎治療ガイドラインが作成され公開されています。このガイドラインでは、B型肝炎ウイルス(HBV)の感染者の治療目標を明記し、治療対象や治療薬の選択について詳細に記載されており、平成26年6月には第2版も公開されています。

C型肝炎の治療においては、ウイルスの除去を目的とした治療を行いますが、B型慢性肝炎の治療では、肝細胞内のウイルスを完全に除去する治療法はいまだに確立されていません。そのため、薬などによりウイルスの増殖を継続的に抑制することで肝炎を鎮静化し、肝臓の線維化を改善し、肝がんの発生を予防することが主な治療目標となります。

肝炎の鎮静化

人間の免疫機構には、体内に侵入した病原体を排除しようとする力が備わっています。体内に侵入したこの病原体(異物)を抗原と呼び、この抗原を排除するためにリンパ球などの免疫機能によって作られるものを抗体と呼びます。

B型肝炎において、HBe抗原が陽性(+)から陰性(-)に変わり、HBe抗体が陰性(-)から陽性(+)に変わることをセロコンバージョンといいます。セロコンバージョンが起こると、B型肝炎ウイルスの活動は抑え込まれ、肝炎が鎮静化します。そのため、セロコンバージョンが起こることが、治療のゴールのひとつとなっています。ただし、一部の人には、セロコンバージョンが起きた後も、ウイルスが増殖を続けて慢性肝炎が再燃したり、肝硬変や肝がんに進展したりするケースがあることも明らかとなっており、定期的な検査による経過観察が大切です。

肝線維化の改善

B型肝炎ウイルスに感染した肝臓で炎症が起こると、肝細胞の破壊と修復が繰り返されます。そして、細胞の修復が間に合わなくなると、それを補うために線維化が起こり、肝臓が徐々に固く小さくなっていきます。これを肝臓の線維化、つまり、肝線維化と呼びます。

肝組織の線維化が進むにつれて、肝機能障害が起こり、慢性肝炎や肝硬変へと発展し、場合によっては肝がんを発症します。そのため、肝臓の線維化を調べることが非常に大切なものとなってきます。線維化を調べるためには、肝生検により肝臓の組織の一部を採取して顕微鏡で調べる病理組織学検査や、腹部エコー検査やCT検査、MRI検査などの画像診断も活用します。

なお、肝線維化の進行度合(ステージ)を把握するため、ヒアルロン酸、Ⅳ型コラーゲン、血小板数などの指標(線維化マーカー)を用います。線維化のステージによって投薬など治療方針も決まります。B型慢性肝炎では、線維化を促進させないこと、線維化を改善することが治療目標のひとつとなっています。

慢性肝炎の治療方法

B型慢性肝炎の主な治療法としては、インターフェロンやエンテカビルなどを用いてB型肝炎ウイルスの増殖を抑制する抗ウイルス療法が推奨されています。また、それ以外にも免疫賦活療法や肝庇護療法があります。

抗ウイルス療法

前述のとおり、B型慢性肝炎では、B型肝炎ウイルスを完全に排除することは困難であり、主な治療目標は、ウイルスの増殖と活動性を抑えることで肝炎の沈静化を目指すことにあります。その治療手段は、年齢や経過、病態の進行具合などを総合的に考慮して決定されますが、経口薬である核酸アナログ製剤と注射薬である(ペグ)インターフェロンの利用が一般的です。

まず、核酸アナログ製剤は、薬を飲んでいる間は、HBVのウイルス量は低下するため、肝炎を沈静化させることができます。日本では現在、エンテカビル、ラミブジン、アデホビルピボキシル、テノホビルの4剤が認可されています。しかし、内服を開始すると長期にわたって服用が必要になることから、治療にあたっては医師とよく相談することが必要です。

このうち、ラミブジンはもともと、エイズ治療用に開発されたものですが、HBVへの抗ウイルス作用が強いことから、B型肝炎の治療薬として日本でも2000年に認可されました。B型肝炎ウイルスの増殖作用を抑制するセロコンバージョンが起こる割合は、インターフェロンと比べて高くはありませんが、35歳以上ではインターフェロン療法の効果が悪くなるといわれており、副作用が少ない核酸アナログ製剤として、ラミブジンの投与が多く行われてきました。ただし、投与中止によりウイルスの活動性が再活発化し、肝機能が悪化することが多いため、長期投与になる可能性が高いです。また、長期投与により、ラミブジンに対する耐性を持ったB型肝炎ウイルス(ラミブジン耐性株)が出現することがあります。そのため、現在は、初めて核酸アナログ製剤を使う場合には、抗ウイルス作用が高く、投与による耐性株の出現頻度がラミブジンより低い、エンテカビルの使用が推奨されています。

核酸アナログ製剤は、副作用が少なく、経口投与が可能で、B型肝炎ウイルスの増殖抑制効果も高い薬ですが、使用を中止すると急激にウイルスが増殖し、肝機能障害を進行させる可能性がありますので、医師の診断に基づいて、しっかりと服用を継続することが重要となります。

つぎに、インターフェロンとは、人間の細胞がウイルスやがん細胞などの異物に反応して分泌するタンパク質で、ウイルスや腫瘍細胞の増殖を抑制するなどの効果があります。本来、インターフェロンは体内でわずかしか作られませんが、これを人為的に作りだし、薬として投与することで、抗ウイルス作用や免疫増強作用を引き出す治療法をインターフェロン治療といいます。B型慢性肝炎の場合、インターフェロン治療の効果がみられる方は治療対象者の約3割と限定的なものにとどまっており、無効例も少なくはありません。

このような状況の中、B型肝炎の治療薬として新しく認可された(日本では2011年)のがペグ・インターフェロンです。これはインターフェロンにポリエチレングリコール(ペグとはポリエチレングリコールの略称)を結合させたもので、従来のインターフェロンよりも血中濃度が維持されることにより、薬効成分が長く血中にとどまるため、抗ウイルス効果が持続します。そのため、従来のインターフェロンよりも投与の回数が、少なく週1回でよいとされており、患者の負担を緩和するものとなっています。

平成20年以降、国および各都道府県は肝炎治療特別促進事業のもと、高額になりがちなB型肝炎の治療(インターフェロン治療・核酸アナログ製剤治療・インターフェロンフリー治療)にかかる医療費を助成しています。 この制度を利用すれば、患者の皆さまの自己負担限度額は月1万円(所得により2万円まで)まで軽減されます。詳細については、都道府県、お近くの保健所までお問い合わせください。

肝庇護療法

肝臓の炎症を抑え、肝炎の進行(線維化)を遅らせることを目的とした治療法です。肝庇護療法にはウイルスの増殖や活動を直接抑制する抗ウイルス効果はありませんが、抗炎症作用を有することから肝機能を保つために利用されることがあります。肝庇護療法に使われる主な薬剤には、ウルソデオキシコール酸やグリチルリチン製剤などがあります。

ウルソデオキシコール酸は、肝臓の血流を促進して肝細胞を保護する働きがあります。グリチルリチン製剤とは異なり経口薬ですので、使用しやすいというメリットがあります。B型肝炎の治療のみならず、C型肝炎の治療にも使われます。

グリチルリチン製剤は、核酸アナログ製剤のように抗ウイルス作用はありませんが、ALTやASTの値を下げるなど肝機能の改善などの効果があります。副作用が原因でインターフェロンが使用できない人や、重度の肝機能障害(肝硬変など)の人などが使用します。ただし、血液中のカリウムの低下、血圧の上昇、むくみなどの副作用が出るおそれがあること、血管内注射(静注)のため、通院する必要があり、負担が大きいなどのデメリットがあります。

免疫賦活療法

持続感染者のHBVに対する免疫反応を活発化(賦活化)する、つまり、免疫力を強くしてHBe抗原のセロコンバージョンとウイルスの増殖を抑え込むことを目的として行われます。

たとえば、ステロイド離脱療法です。これは、体内の免疫力を抑制する副腎皮質ステロイドを一定期間投与します。すると、一時的にHBVが増殖します。その後、急速に投与を減量中止させ、リバウンド(反跳作用)により高まった(賦活化した)体内の免疫力により、HBVの増殖を抑え込むことを狙います。ただし、一時的に肝炎が悪化しますし、専門医でも経験が問われる治療法であるため、治療には慎重な検討が必要となっています。

そのほか、プロパゲルマニウム製剤などもありますが、B型慢性肝炎が急性増悪するなど、肝炎が劇症化する死亡例が報告されたため、現在は黄疸のある患者、肝硬変のある患者、肝硬変の疑われる患者には禁忌となっており、肝機能検査を2週間ごとに行い異常が認められたら、ただちに中止するなど細かな使用上の注意が定められています。そのため、現在ではあまり用いられていないようです。

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